見た目や本の構成はまるでマニュアル本。
が、内容は濃く、かつ、統計に基づいた中立的分析。
帯に書いてある通り、初心者から専門家まで役立つ。
(もちろん私は初心者)
中国人の立場からは、習近平は心強い指導者に写っているのではないか、と思わせる。
初版は2019年8月。よってコロナと国家安全法の前。
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内容がこちらに。アウトルック編は基礎知識で、キーワード編・深層分析編がメインである。
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アウトルック編からいくつか拾うと(過去に出てきたものは除きつつ)
●三大堅塁攻略戦:2020年までに小康社会(少しゆとりのある社会)を完成させるという目標に向けての改革方針。三大堅塁とは「金融リスク防止解消」「農村貧困人口ゼロ」「汚染防止」。

●北京コンセンサス:リーマンショック後中国主導で形成された途上国政策の合意。ワシントンコンセンサス=自由なのに対し、こちらは統制。米中対立がイデオロギー闘争と言われる所以。

●一帯一路:一帯(陸路)の方は3つの経路、一路(海路)の方は2つの経路がある。

●インターネットプラス:経済の様々な分野でインターネットを活用。



深層分析編の方はさらに参考になる。
チャレンジングな問題に著者としての見解をしっかり出している。

●中所得国の罠にはまるのか:中所得国の罠は1人当たり所得3000ドル近辺と、1万ドル近辺の2回訪れる。現在1万ドル弱。結論としては、習近平の計画が全部うまくいけば達成可能性はあるが、人口問題、過剰債務問題、住宅バブル問題、米中貿易摩擦などにより前途多難。

●債務危機に陥るのか:非金融セクターの債務残高がGDP比253%と危険水域を振り切っている。鄧小平の改革開放政策以来、高水準の投資がたたりG20の平均の2倍の水準になってしまった。では危ないのかというと、一般政府債務は68%とG20平均以下、また家計債務は平均並みで、合計すると日本よりは低い水準。中国は統制経済なので、いくつかの条件の下で、何とかコントロールできるのではというのが著者の見解。

●住宅バブルは崩壊するのか:上の条件の一つが住宅バブルがはじけないこと。しかし、全国平均で3割程度、北京では深刻なほどの家賃高。少子高齢化から人口が減る一方、都市化は進展しているのでもっている。農村から都市への移住が減速すると危ない可能性も。

●米中対立はどうなるのか:関税・技術移転・知的財産権保護など経済貿易面だけに焦点が絞れれば合意可能。安全保障面の対立のカギを握るのは科学技術力。今後、新冷戦になるか共存共栄になるかは両方のシナリオが描ける。

説得力のある素晴らしい推論である。そして、出版後1年経った今では、新冷戦の方にむかっていると言えよう。米大統領選が転機になるかもしれないが、今のところの予想では、バイデンになっても対中政策は変わらないと言われている。